た。その話によると、彼女は世の中で一番の善人であった。これに反して島田は大変な悪ものであった。しかし最も悪いのは御藤《おふじ》さんであった。「あいつが」とか「あの女が」とかいう言葉を使うとき、御常は口惜しくって堪まらないという顔付をした。眼から涙を流した。しかしそうした劇烈な表情はかえって健三の心持を悪くするだけで、外に何の効果もなかった。
「あいつは讐《かたき》だよ。御母《おっか》さんにも御前にも讐だよ。骨を粉《こ》にしても仇討《かたきうち》をしなくっちゃ」
御常は歯をぎりぎり噛《か》んだ。健三は早く彼女の傍を離れたくなった。
彼は始終自分の傍にいて、朝から晩まで彼を味方にしたがる御常よりも、むしろ島田の方を好いた。その島田は以前と違って、大抵は宅《うち》にいない事が多かった。彼の帰る時刻は何時も夜更《よふけ》らしかった。従って日中は滅多に顔を合せる機会がなかった。
しかし健三は毎晩暗い灯火《ともしび》の影で彼を見た。その険悪な眼と怒《いかり》に顫《ふる》える唇とを見た。咽喉《のど》から渦捲《うずま》く烟《けむり》のように洩《も》れて出るその憤りの声を聞いた。
それでも彼は時
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