の人格の中《うち》に蔵《かく》していたのである。そうしてその醜くいものを一番|能《よ》く知っていたのは、彼女の懐に温められて育った駄々《だだ》ッ子《こ》に外ならなかったのである。
四十三
その中《うち》変な現象が島田と御常との間に起った。
ある晩健三がふと眼を覚まして見ると、夫婦は彼の傍《そば》ではげしく罵《ののし》り合っていた。出来事は彼に取って突然であった。彼は泣き出した。
その翌晩も彼は同じ争いの声で熟睡を破られた。彼はまた泣いた。
こうした騒がしい夜が幾つとなく重なって行くに連れて、二人の罵る声は次第に高まって来た。しまいには双方とも手を出し始めた。打つ音、踏む音、叫ぶ音が、小さな彼の心を恐ろしがらせた。最初彼が泣き出すとやんだ二人の喧嘩《けんか》が、今では寐《ね》ようが覚めようが、彼に用捨なく進行するようになった。
幼稚な健三の頭では何のために、ついぞ見馴《みな》れないこの光景が、毎夜深更に起るのか、まるで解釈出来なかった。彼はただそれを嫌った。道徳も理非も持たない彼に、自然はただそれを嫌うように教えたのである。
やがて御常は健三に事実を話して聞かせ
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