方へ滑り込んでいる地面の中途に当るので、普通の倍ほどあった。彼はその出来事のためにとうとう腰を抜かした。
驚ろいた養父母はすぐ彼を千住《せんじゅ》の名倉《なぐら》へ伴《つ》れて行って出来るだけの治療を加えた。しかし強く痛められた腰は容易に立たなかった。彼は醋《す》の臭のする黄色いどろどろしたものを毎日局部に塗って座敷に寐ていた。それが幾日《いくか》続いたか彼は知らなかった。
「まだ立てないかい。立って御覧」
御常は毎日のように催促した。しかし健三は動けなかった。動けるようになってもわざと動かなかった。彼は寐ながら御常のやきもきする顔を見てひそかに喜こんだ。
彼はしまいに立った。そうして平生《へいぜい》と何の異なる所なく其所いら中歩き廻った。すると御常の驚ろいて嬉《うれ》しがりようが、如何《いか》にも芝居じみた表情に充ちていたので、彼はいっそ立たずにもう少し寐ていればよかったという気になった。
彼の弱点が御常の弱点とまともに相摶《あいう》つ事も少なくはなかった。
御常は非常に嘘《うそ》を吐《つ》く事の巧《うま》い女であった。それからどんな場合でも、自分に利益があるとさえ見れば、
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