?」
健三は彼女の意を迎えるために、向うの望むような返事をするのが厭で堪らなかった。 彼は無言のまま棒のように立ッていた。それをただ年歯《としは》の行かないためとのみ解釈した御常の観察は、むしろ簡単に過ぎた。彼は心のうちで彼女のこうした態度を忌み悪《にく》んだのである。
夫婦は全力を尽して健三を彼らの専有物にしようと力《つと》めた。また事実上健三は彼らの専有物に相違なかった。従って彼らから大事にされるのは、つまり彼らのために彼の自由を奪われるのと同じ結果に陥った。彼には既に身体《からだ》の束縛があった。しかしそれよりもなお恐ろしい心の束縛が、何も解らない彼の胸に、ぼんやりした不満足の影を投げた。
夫婦は何かに付けて彼らの恩恵を健三に意識させようとした。それで或時は「御父ッさんが」という声を大きくした。或時はまた「御母さんが」という言葉に力を入れた。御父ッさんと御母さんを離れたただの菓子を食ったり、ただの着物を着たりする事は、自然健三には禁じられていた。
自分たちの親切を、無理にも子供の胸に外部から叩《たた》き込もうとする彼らの努力は、かえって反対の結果をその子供の上に引き起した
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