《おかず》の這入《はい》っている戸棚に、いつでも錠を卸《お》ろした。たまに実家の父が訪ねて来ると、きっと蕎麦《そば》を取り寄せて食わせた。その時は彼女も健三も同じものを食った。その代り飯時が来ても決して何時ものように膳《ぜん》を出さなかった。それを当然のように思っていた健三は、実家へ引き取られてから、間食の上に三度の食事が重なるのを見て、大いに驚ろいた。
 しかし健三に対する夫婦は金の点に掛けてむしろ不思議な位寛大であった。外へ出る時は黄八丈《きはちじょう》の羽織《はおり》を着せたり、縮緬《ちりめん》の着物を買うために、わざわざ越後屋《えちごや》まで引っ張って行ったりした。その越後屋の店へ腰を掛けて、柄を択《よ》り分けている間に、夕暮の時間が逼《せま》ったので、大勢の小僧が広い間口の雨戸を、両側から一度に締め出した時、彼は急に恐ろしくなって、大きな声を揚げて泣き出した事もあった。
 彼の望む玩具《おもちゃ》は無論彼の自由になった。その中には写し絵の道具も交《まじ》っていた。彼はよく紙を継ぎ合わせた幕の上に、三番叟《さんばそう》の影を映して、烏帽子《えぼし》姿に鈴を振らせたり足を動かさせ
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