肩に手が届くか、または笠に自分の頭が触れると、その先はもうどうする事も出来ずにまた下りて来た。
 彼はまたこの四角な家と唐金の仏様の近所にある赤い門の家を覚えていた。赤い門の家は狭い往来から細い小路《こうじ》を二十間も折れ曲って這入《はい》った突き当りにあった。その奥は一面の高藪《たかやぶ》で蔽《おお》われていた。
 この狭い往来を突き当って左へ曲ると長い下り坂があった。健三の記憶の中に出てくるその坂は、不規則な石段で下から上まで畳み上げられていた。古くなって石の位置が動いたためか、段の方々には凸凹《でこぼこ》があった。石と石の罅隙《すきま》からは青草が風に靡《なび》いた。それでも其所は人の通行する路に違なかった。彼は草履《ぞうり》穿《ばき》のままで、何度かその高い石段を上《のぼ》ったり下《さが》ったりした。
 坂を下り尽すとまた坂があって、小高い行手に杉の木立《こだち》が蒼黒《あおぐろ》く見えた。丁度その坂と坂の間の、谷になった窪地《くぼち》の左側に、また一軒の萱葺《かやぶき》があった。家は表から引込《ひっこ》んでいる上に、少し右側の方へ片寄っていたが、往来に面した一部分には掛茶屋《
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