かけぢゃや》のような雑な構《かまえ》が拵《こしら》えられて、常には二、三脚の床几《しょうぎ》さえ体《てい》よく据えてあった。
葭簀《よしず》の隙《すき》から覗《のぞ》くと、奥には石で囲んだ池が見えた。その池の上には藤棚が釣ってあった。水の上に差し出された両端《りょうはじ》を支える二本の棚柱《たなばしら》は池の中に埋まっていた。周囲《まわり》には躑躅《つつじ》が多かった。中には緋鯉《ひごい》の影があちこちと動いた。濁った水の底を幻影《まぼろし》のように赤くするその魚《うお》を健三は是非捕りたいと思った。
或日彼は誰も宅にいない時を見計《みはから》って、不細工な布袋竹《ほていちく》の先へ一枚糸を着けて、餌《えさ》と共に池の中に投げ込んだら、すぐ糸を引く気味の悪いものに脅かされた。彼を水の底に引っ張り込まなければやまないその強い力が二の腕まで伝った時、彼は恐ろしくなって、すぐ竿《さお》を放り出した。そうして翌日《あくるひ》静かに水面に浮いている一|尺《しゃく》余りの緋鯉を見出した。彼は独り怖がった。……
「自分はその時分誰と共に住んでいたのだろう」
彼には何らの記憶もなかった。彼の頭は
前へ
次へ
全343ページ中125ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
夏目 漱石 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング