してか知っていた。
「何でも金鵄勲章《きんしくんしょう》の年金か何かを御藤《おふじ》さんが貰《もら》ってるんだとさ。だから島田もどこからか貰わなくっちゃ淋しくって堪らなくなったんだろうよ。何《なん》しろあの位|慾張《よくば》ってるんだから」
 健三は慾で淋しがってる人に対して大した同情も起し得なかった。

     三十八

 事件のない日がまた少し続いた。事件のない日は、彼に取って沈黙の日に過ぎなかった。
 彼はその間に時々己《おの》れの追憶を辿《たど》るべく余儀なくされた。自分の兄を気の毒がりつつも、彼は何時の間にか、その兄と同じく過去の人となった。
 彼は自分の生命を両断しようと試みた。すると綺麗《きれい》に切り棄《す》てられべきはずの過去が、かえって自分を追掛《おっか》けて来た。彼の眼は行手を望んだ。しかし彼の足は後《あと》へ歩きがちであった。
 そうしてその行き詰りには、大きな四角な家が建っていた。家には幅の広い階子段《はしごだん》のついた二階があった。その二階の上も下も、健三の眼には同じように見えた。廊下で囲まれた中庭もまた真四角《まっしかく》であった。
 不思議な事に、そ
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