をすぐ売り払ってしまった。それで元からある借金を済《な》して、自分は小さな宅《うち》へ這入《はい》った。それから其所《そこ》に納まり切らない道具類を売払った。
 間もなく彼は三人の子の父になった。そのうちで彼の最も可愛《かあい》がっていた惣領《そうりょう》の娘が、年頃になる少し前から悪性の肺結核に罹《かか》ったので、彼はその娘を救うために、あらゆる手段を講じた。しかし彼のなし得《う》る凡ては残酷な運命に対して全くの徒労に帰した。二年越|煩《わずら》った後で彼女が遂に斃《たお》れた時、彼の家の箪笥《たんす》はまるで空になっていた。儀式に要《い》る袴《はかま》は無論、ちょっとした紋付の羽織《はおり》さえなかった。彼は健三の外国で着古した洋服を貰《もら》って、それを大事に着て毎日局へ出勤した。

     三十五

 二、三日経って健三の兄は果して細君の予想通り袴《はかま》を返しに来た。
「どうも遅くなって御気の毒さま。有難う」
 彼は腰板の上に双方の端《はじ》を折返して小さく畳んだ袴を、風呂敷の中から出して細君の前に置いた。大の見栄坊《みえぼう》で、ちょっとした包物を持つのも厭《いや》がっ
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