と言いますと、資本家とかあるいは政府とか、あるいは教育者とか云うものが、総《すべ》て多数の人間を相手にしてそうして、何か事を手早く運び、手際《てぎわ》よく片づけようと云うためには、どうしたって統一と云う事と、組織と云う事と、秩序と云う事を真向《まっこう》に振翳《ふりかざ》さなければできない話である。例えば実業家が事業をする。そのために人夫を百人雇う。職工を千人雇う。そうして彼らの間に規律と云うものが無かったならば、――彼らのうちには今日は頭が痛いから休むというものもできようし、朝の七時からは厭《いや》だからおれは午後から出るとわがままを云うものもできようし、あるいは今日は少し早く切り上げて寄席《よせ》へ行くとか、あるいは今日は朝出がけに酒を飲むんだとか各々勝手な事を、ばらばらに行動されてはせっかく一箇月でできる事業も一年かかるか二年かかるか見込が立たなくなります。けれどもどうでしょうこういう軍人教育者実業家などが公務をしまって家へ帰ってさあこれからがおれの身体《からだ》だという場合に、やはり同じような窮屈極まる生活に甘んずるでしょうか。人によっては寝食の時間など大変規則正しい人もあるか
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