も知れないが、原則から云えば楽に自由な骨休めをしたいと願いまたできるだけその呑気主義を実行するのが一般の習慣であります。すると彼らには明かに背馳《はいち》した両面の生活がある事になる。業務についた自分と業務を離れた自分とはどう見たって矛盾である。しかしこの矛盾は生活の性質から出るやむをえざる矛盾だから、形式から云えばいかにも矛盾のようであるけれども、実際の内面生活から云えばかく二様になる方がかえって本来の調和であって、無理にそれを片づけようとするならばそれこそ真の矛盾に陥《おちい》る訳じゃなかろうかと思います。なぜというと、一つは人を支配するための生活で、一つは自分の嗜慾《しよく》を満足させるための生活なのだから、意味が全く違う。意味が違えば様子も違うのがもっともだといったような話であります。反対の例を挙《あ》げて今度は同じ事を逆に説明してみましょう。世間には芸術家という一種の職業がある。これはすこぶる気まぐれ商売で、共同的にはけっして仕事ができない性質のものであります。幾らやかましい小言《こごと》を云われても個人的にこつこつやって行くのが原則になっています。しかもその個人が気の向いた
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