一種の智識として尊重すると云う事になるのであります。
 これは複雑の事を簡略の例で御話をするのでありますから、そのつもりでお聴きを願いますが、ここに一つの平面があって、それに他の平面が交叉しているとすると、この二つの平面の関係は何で示すかというと、申すまでもなくその両面の喰違った角度である。どっちが高いのでもないどっちが低いのでもない。三十度の角度をなしているとか、六十度の角度をなしているとか云えば極《きわ》めて明暸でそれより以外に説明する事も質問する事も何《なん》にもないのであります。それをこの二面がいつでも偶然平らに並行でもしているかのごとき了見《りょうけん》で、全体どっちが高いのですと聞かなければ承知ができないのは痛み入ります。人間と人間、事件と事件が衝突したり、捲《ま》き合ったり、ぐるぐる回転したりする時その優劣上下が明かに分るような性質程度で、その成行が比較さえできればいい訳だが、惜《お》しい哉《かな》この比較をするだけの材料、比較をするだけの頭、纏《まと》めるだけの根気がないために、すなわち門外漢であるがために、どうしても角度を知ることができないために、上下とか優劣とか持ち
前へ 次へ
全35ページ中13ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
夏目 漱石 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング