たのだが、苦痛でもなかったから、まあ出来ていた。こちらが無暗《むやみ》に自分を立てようとしたら迚《とて》も円滑な交際の出来る男ではなかった。例えば発句などを作れという。それを頭からけなしちゃいかない。けなしつつ作ればよいのだ。策略でするわけでも無いのだが、自然とそうなるのであった。つまり僕の方が人が善《よ》かったのだな。今正岡が元気でいたら、余程《よほど》二人の関係は違うたろうと思う。尤《もっと》も其他、半分は性質が似たところもあったし、又半分は趣味の合っていた処もあったろう。も一つは向うの我とこちらの我とが無茶苦茶に衝突もしなかったのでもあろう。忘れていたが、彼と僕と交際し始めたも一つの原因は、二人で寄席《よせ》の話をした時、先生も大に寄席通を以《もっ》て任じて居る。ところが僕も寄席の事を知っていたので、話すに足るとでも思ったのであろう。それから大《おおい》に近よって来た。
彼は僕には大抵な事は話したようだ。(其例一二|省《はぶ》く)兎《と》に角《かく》正岡は僕と同じ歳《とし》なんだが僕は正岡ほど熟さなかった。或部分は万事が弟扱いだった。従って僕の相手し得ない人の悪い事を平気で遣《
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