しじゅう》やって居たかと聞いている。
彼は僕などより早熟で、いやに哲学などを振り廻すものだから、僕などは恐れを為《な》していた。僕はそういう方に少しも発達せず、まるでわからん処へ持って来て、彼はハルトマンの哲学書か何かを持ち込み、大分振り廻していた。尤《もっと》も厚い独逸書《ドイツしょ》で、外国にいる加藤恒忠氏に送って貰ったもので、ろくに読めもせぬものを頻《しき》りにひっくりかえしていた。幼稚な正岡が其を振り廻すのに恐れを為《な》していた程、こちらは愈※[#二の字点、1−2−22]《いよいよ》幼稚なものであった。
妙に気位の高かった男で、僕なども一緒に矢張り気位の高い仲間であった。ところが今から考えると、両方共それ程えらいものでも無かった。といって徒《いたず》らに吹き飛ばすわけでは無かった。当人は事実をいっているので、事実えらいと思っていたのだ。教員などは滅茶苦茶《めちゃくちゃ》であった。同級生なども滅茶苦茶であった。
非常に好き嫌いのあった人で、滅多《めった》に人と交際などはしなかった。僕だけどういうものか交際した。一つは僕の方がええ加減に合わして居ったので、それも苦痛なら止め
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