ートを大略話してやる。彼奴《あいつ》の事だからええ加減に聞いて、ろくに分っていない癖《くせ》に、よしよし分ったなどと言って生呑込《なまのみこみ》にしてしまう。其時分は常盤会《ときわかい》寄宿舎に居たものだから、時刻になると食堂で飯を食う。或時又来て呉れという。僕が其時返辞をして、行ってもええけれど又|鮭《さけ》で飯を食わせるから厭《いや》だといった。其時は大に御馳走《ごちそう》をした。鮭を止めて近処の西洋料理屋か何かへ連れて行った。
 或日突然手紙をよこし、大宮の公園の中の万松庵に居るからすぐ来いという。行った。ところがなかなか綺麗《きれい》なうちで、大将奥座敷に陣取って威張っている。そうして其処《そこ》で鶉《うずら》か何かの焼いたのなどを食わせた。僕は其形勢を見て、正岡は金がある男と思っていた。処が実際はそうでは無かった。身代を皆食いつぶしていたのだ。其後熊本に居る時分、東京へ出て来た時、神田川へ飄亭《ひょうてい》と三人で行った事もあった。これはまだ正岡の足の立っていた時分だ。
 正岡の食意地の張った話というのは、もうこれ位ほか思い出せぬ。あの駒込追分奥井の邸内に居った時分は、一軒|
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