、その人も丁度《ちょうど》東洋さんのような変人で、而も世間から必要とせられて居た。そこで私は自分もどうかあんな風にえらくなってやって行きたいものと思ったのである。ところが私は医者は嫌《きら》いだ。どうか医者でなくて何か好い仕事がありそうなものと考えて日を送って居るうちに、ふと建築のことに思い当った。建築ならば衣食住の一つで世の中になくて叶《かな》わぬのみか、同時に立派な美術である。趣味があると共に必要なものである。で、私はいよいよそれにしようと決めた。
ところが丁度その時分(高等学校)の同級生に、米山保三郎という友人が居た。それこそ真性変物で、常に宇宙がどうの、人生がどうのと、大きなことばかり言って居る。ある日此男が訪《たず》ねて来て、例の如く色々哲学者の名前を聞かされた揚句《あげく》の果《はて》に君は何になると尋ねるから、実はこうこうだと話すと、彼は一も二もなくそれを却《しりぞ》けてしまった。其時かれは日本でどんなに腕を揮《ふる》ったって、セント・ポールズの大寺院のような建築を天下後世に残すことは出来ないじゃないかとか何とか言って、盛んなる大議論を吐いた。そしてそれよりもまだ文学の
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