処女作追懐談
夏目漱石

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)先《ま》ず

|:ルビの付いていない漢字とルビの付く漢字の境の記号
(例)随分|呑気《のんき》

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
   (数字は、JIS X 0213の面区点番号、底本のページと行数)
(例)※[#「陷のつくり+炎」、第3水準1−87−64、306上−19]
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 私の処女作――と言えば先《ま》ず『猫』だろうが、別に追懐する程のこともないようだ。ただ偶然ああいうものが出来たので、私はそういう時機に達して居たというまでである。
 というのが、もともと私には何をしなければならぬということがなかった。勿論《もちろん》生きて居るから何かしなければならぬ。する以上は、自己の存在を確実にし、此処《ここ》に個人があるということを他にも知らせねばならぬ位の了見《りょうけん》は、常人と同じ様に持っていたかも知れぬ。けれども創作の方面で自己を発揮しようとは、創作をやる前迄も別段考えていなかった。
 話が自分の経歴見たようなものになるが、丁度《ちょうど》私が大学を出てから間もなく
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