好い点において、幽霊の雛《ひな》のように見えた。そうしてその雛は必要のあるたびに無言のまま必ず動いた。
余は声も出さなかった。呼びもしなかった。それでも余の寝ている位置に、少しの変化さえあれば彼等はきっと動いた。手を毛布《けっと》のうちで、もじつかせても、心持肩を右から左へ揺《ゆす》っても、頭を――頭は眼が覚《さ》めるたびに必ず麻痺《しび》れていた。あるいは麻痺れるので眼が覚めるのかも知れなかった。――その頭を枕の上で一寸《いっすん》摺《ず》らしても、あるいは足――足はよく寝覚《ねざ》めの種となった。平生《ふだん》の癖で時々、片方《かたかた》を片方の上へ重ねて、そのままとろとろとなると、下になった方の骨が沢庵石《たくわんいし》でも載せられたように、みしみしと痛んで眼が覚めた。そうして余は必ず強い痛さと重たさとを忍んで足の位置を変えなければならなかった。――これらのあらゆる場合に、わが変化に応じて、白い着物の動かない事はけっしてなかった。時にはわが動作を予期して、向うから動くと思われる場合もあった。時には手も足も頭も動かさないのに、眠りが尽きてふと眼を開けさえすれば、白い着物はすぐ顔の
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