思い出す事など
夏目漱石

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)朝夕《あさゆう》

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)釣台に野菊も見えぬ桐油|哉《かな》

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
   (数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)※[#「口+荅」、第4水準2−4−16]
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        一

 ようやくの事でまた病院まで帰って来た。思い出すとここで暑い朝夕《あさゆう》を送ったのももう三カ月の昔になる。その頃《ころ》は二階の廂《ひさし》から六尺に余るほどの長い葭簀《よしず》を日除《ひよけ》に差し出して、熱《ほて》りの強い縁側《えんがわ》を幾分《いくぶん》か暗くしてあった。その縁側に是公《ぜこう》から貰った楓《かえで》の盆栽《ぼんさい》と、時々人の見舞に持って来てくれる草花などを置いて、退屈も凌《しの》ぎ暑さも紛《まぎ》らしていた。向《むこう》に見える高い宿屋の物干《ものほし》に真裸《まっぱだか》の男が二人出て、日盛《ひざかり》を事ともせず、欄干《らんかん》の上を危《あぶ》なく
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