りたいと考えた。そうしてこの幸福な考えをわれに打壊《うちこわ》す者を、永久の敵とすべく心に誓った。
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馬上青年老[#「馬上青年老」に白丸傍点]。 鏡中白髪新[#「鏡中白髪新」に白丸傍点]。
幸生天子国[#「幸生天子国」に白丸傍点]。 願作太平民[#「願作太平民」に白丸傍点]。
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二十
ツルゲニェフ以上の芸術家として、有力なる方面の尊敬を新たにしつつあるドストイェフスキーには、人の知るごとく、小供の時分から癲癇《てんかん》の発作《ほっさ》があった。われら日本人は癲癇と聞くと、ただ白い泡を連想するに過ぎないが、西洋では古くこれを神聖なる疾《やまい》と称《とな》えていた。この神聖なる疾に冒《お》かされる時、あるいはその少し前に、ドストイェフスキーは普通の人が大音楽を聞いて始めて到《いた》り得るような一種微妙の快感に支配されたそうである。それは自己と外界との円満に調和した境地で、ちょうど天体の端から、無限の空間に足を滑《すべ》らして落ちるような心持だとか聞いた。
「神聖なる疾」に罹《かか》った事のない余は、不幸にしてこの年にな
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