きな意識と冥合《めいごう》できよう。臆病にしてかつ迷信強き余は、ただこの不可思議を他人《ひと》に待つばかりである。
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迎火《むかいび》を焚《た》いて誰《たれ》待つ絽《ろ》の羽織《はおり》
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十八
ただ驚ろかれたのは身体《からだ》の変化である。騒動のあった明《あく》る朝、何かの必要に促《うな》がされて、肋《あばら》の左右に横たえた手を、顔の所まで持って来《き》ようとすると、急に持主でも変ったように、自分の腕ながらまるで動かなかった。人を煩《わず》らわす手数《てかず》を厭《いと》って、無理に肘《ひじ》を杖《つえ》として、手頸《てくび》から起しかけたはかけたが、わずか何寸かの距離を通して、宙に短かい弧線を描く努力と時間とは容易のものでなかった。ようやく浮き上った筋《きん》の力を利用して、高い方へ引くだけの精気に乏しいので、途中から断念して、再び元の位置にわが腕を落そうとすると、それがまた安くは落ちなかった。無論そのままにして心を放せば、自然の重みでもとに倒れるだけの事ではあるが、その倒れる時の激動が、いかに全身に響き渡るかと
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