3−21]将衰」に白丸傍点]。 廓寥天尚在[#「廓寥天尚在」に白丸傍点]。 高樹独余枝[#「高樹独余枝」に白丸傍点]。
晩懐如此澹[#「晩懐如此澹」に白丸傍点]。 風露入詩遅[#「風露入詩遅」に白丸傍点]。
[#ここで字下げ終わり]

        十六

 安らかな夜はしだいに明けた。室《へや》を包む影法師が床《とこ》を離れて遠退《とおの》くに従って、余はまた常のごとく枕辺《まくらべ》に寄る人々の顔を見る事ができた。その顔は常の顔であった。そうして余の心もまた常の心であった。病《やまい》のどこにあるかを知り得ぬほどに落ちついた身を床の上に横《よこた》えて、少しだに動く必要をもたぬ余に、死のなお近く徘徊《はいかい》していようとは全く思い設けぬところであった。眼を開けた時余は昨夕《ゆうべ》の騒ぎを(たとい忘れないまでも)ただ過去の夢のごとく遠くに眺めた。そうして死は明け渡る夜と共に立《た》ち退《の》いたのだろうぐらいの度胸でも据《すわ》ったものと見えて、何らの掛念《けねん》もない気分を、障子《しょうじ》から射し込む朝日の光に、心地《ここち》よく曝《さら》していた。実は無知な余を詐《いつ
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