を跨《また》いで用を足して来た。
 長い雨がようやく歇《や》んで、東京への汽車がほぼ通ずるようになった頃、裸連は九人とも申し合せたように、どっと東京へ引き上げた。それと入れ代りに、森成さんと雪鳥君《せっちょうくん》と妻《さい》とが前後して東京から来てくれた。そうして裸連のいた部屋を借り切った。その次の部屋もまた借り切った。しまいには新築の二階座敷を四間《よま》ともに吾有《わがゆう》とした。余は比較的閑寂な月日の下《もと》に、吸飲《すいのみ》から牛乳を飲んで生きていた。一度は匙《さじ》で突き砕《くだ》いた水瓜《すいか》の底から湧《わ》いて出る赤い汁を飲まして貰《もら》った。弘法様《こうぼうさま》で花火の揚《あが》った宵《よい》は、縁近く寝床を摺《ず》らして、横になったまま、初秋《はつあき》の天《そら》を夜半近《やはんぢか》くまで見守っていた。そうして忘るべからざる二十四日の来るのを無意識に待っていた。
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萩《はぎ》に置く露の重きに病む身かな
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        十三

 その日は東京から杉本さんが診察に来る手筈《てはず》になっていた。雪鳥君が
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