ず大道《だいどう》で講演でもするように大きな声を出して得意であった。そうして下女が来ると、必ず通客《つうかく》めいた粋《いき》がりを連発した。それを隣坐敷《となりざしき》で聞いていると、ウィットにもならなければヒューモーにもなっていないのだから、いかにも無理やりに、(しかも大得意に、)半可《はんか》もしくは四半可《しはんか》を殺風景に怒鳴《どな》りつけているとしか思われなかった。ところが下女の方では、またそれを聞くたびに不必要にふんだんな笑い方をした。本気とも御世辞《おせじ》とも片のつかない笑い方だけれども、声帯に異状のあるような恐ろしい笑い方をした。病気にのみ屈託《くったく》する余も、これには少からず悩まされた。
 裸連の一部は下座敷にもいた。すべてで九人いるので、自《みずか》ら九人組とも称《とな》えていた。その九人組が丸裸になって幅六尺の縁側《えんがわ》へ出て踊をおどって一晩|跳《は》ね廻った。便所へ行く必要があって、障子《しょうじ》の外へ出たら、九人組は躍《おど》り草臥《くたび》れて、素裸《すはだか》のまま縁側に胡坐《あぐら》をかいていた。余は邪魔になる尻《しり》や脛《すね》の間
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