のの、すでに滞《とどこお》りなくすんだ昨日の午後を顧みて、裸連――少くとも裸連の首脳の構成《かたちづく》る隣座敷の泊り客……の成功を祝せざるを得なかった。
 この泊り客は五人連《ごにんづれ》で一間《ひとま》に這入《はい》っていた。その中《うち》の一番|年嵩《としかさ》に見える三十代の男に、その妻君と娘を合せるとすでに三人になる。妻君は品《ひん》のいい静かな女であった。子供はなおさらおとなしかった。その代り夫はすこぶる騒々しかった。あとの二人はいずれも二十代の青年で、その一人は一行のうちでもっともやかましくふるまっていた。
 誰でも中年以後になって、二十一二時代の自分を眼の前に憶《おも》い浮べて見ると、いろいろ回想の簇《むら》がる中に、気恥《きはず》かしくて冷汗の流れそうな一断面を見出すものである。余は隣の室《へや》に呻吟《しんぎん》しながら、この若い男の言葉使いや起居《たちい》を注意すべく余儀なくされた結果として、二十年の昔に経過した、自分の生涯《しょうがい》のうちで、はなはだ不面目と思わざるを得ない生意気さ加減を今更のように恐れた。
 この男は何の必要があってか知らないけれども、絶え
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