だな》をつけてやった。ある時何かのついでに、時に御前の顔は何かに似ているよと云ったら、どうせ碌《ろく》なものに似ているのじゃございますまいと答えたので、およそ人間として何かに似ている以上は、まず動物にきまっている。ほかに似ようたって容易に似られる訳のものじゃないと言って聞かせると、そりゃ植物に似ちゃ大変ですと絶叫《ぜっきょう》して以来、とうとう鼬ときまってしまったのである。
鼬の町井さんはやがて紅白の梅を二枝|提《さ》げて帰って来た。白い方を蔵沢《ぞうたく》の竹の画《え》の前に挿《さ》して、紅《あか》い方は太い竹筒《たけづつ》の中に投げ込んだなり、袋戸《ふくろど》の上に置いた。この間人から貰った支那水仙もくるくると曲って延びた葉の間から、白い香《か》をしきりに放った。町井さんは、もうだいぶん病気がよくおなりだから、明日《あした》はきっと御雑煮《おぞうに》が祝えるに違ないと云って余を慰めた。
除夜《じょや》の夢は例年の通り枕の上に落ちた。こう云う大患に罹《かか》ったあげく、病院の人となって幾つの月を重ねた末、雑煮までここで祝うのかと考えると、頭の中にはアイロニーと云う羅馬字《ローマじ
前へ
次へ
全144ページ中141ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
夏目 漱石 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング