ら断片的にも叙しておきたいと思い立ったのはこれがためである。友人のうちには、もうそれほど好くなったかと喜んでくれたものもある。あるいはまたあんな軽挙《かるはずみ》をしてやり損《そこ》なわなければいいがと心配してくれたものもある。
その中で一番|苦《にが》い顔をしたのは池辺三山君《いけべさんざんくん》であった。余が原稿を書いたと聞くや否や、たちまち余計な事だと叱りつけた。しかもその声はもっとも無愛想《ぶあいそう》な声であった。医者の許可を得たのだから、普通の人の退屈凌《たいくつしの》ぎぐらいなところと見たらよかろうと余は弁解した。医者の許可もさる事だが、友人の許可を得なければいかんと云うのが三山君の挨拶《あいさつ》であった。それから二三日して三山君が宮本博士に会ってこの話をすると、博士は、なるほど退屈をすると胃に酸《さん》が湧《わ》く恐れがあるからかえって悪いだろうと調停してくれたので、余はようやく助かった。
その時余は三山君に、
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遺却新詩無処尋[#「遺却新詩無処尋」に白丸傍点]。 ※[#「口+荅」、第4水準2−4−16]然隔※[#「片+(戸+甫)」、第3水準
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