「余生豈忍比残灰」に白丸傍点]。
風過古澗秋声起[#「風過古澗秋声起」に白丸傍点]。 日落幽篁瞑色来[#「日落幽篁瞑色来」に白丸傍点]。
漫道山中三月滞[#「漫道山中三月滞」に白丸傍点]。 ※[#「言+巨」、第3水準1−92−4]知門外一天開[#「※[#「言+巨」、第3水準1−92−4]知門外一天開」に白丸傍点]。
帰期勿後黄花節[#「帰期勿後黄花節」に白丸傍点]。 恐有羇魂夢旧苔[#「恐有羇魂夢旧苔」に白丸傍点]。
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        三十三

 正月を病院でした経験は生涯《しょうがい》にたった一遍《いっぺん》しかない。
 松飾りの影が眼先に散らつくほど暮が押しつまった頃、余は始めてこの珍らしい経験を目前に控えた自分を異様に考え出した。同時にその考《かんがえ》が単に頭だけに働らいて、毫《ごう》も心臓の鼓動に響を伝えなかったのを不思議に思った。
 余は白い寝床《ベッド》の上に寝ては、自分と病院と来《きた》るべき春とをかくのごとくいっしょに結びつける運命の酔興《すいきょう》さ加減を懇《ねんご》ろに商量《しょうりょう》した。けれども起き直って机に向ったり、膳《ぜん》
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