折して下《くだ》って来るのを疎《うと》い眼で眺めた。彼らは必ず粗《あら》い縞《しま》の貸浴衣《かしゆかた》を着て、日の照る時は手拭《てぬぐい》で頬冠《ほおかむ》りをしていた。岨道《そばみち》を行くべきものとも思われないその姿が、花を抱《かか》えて岩の傍《そば》にぬっと現われると、一種芝居にでも有りそうな感じを病人に与えるくらい釣合《つりあい》がおかしかった。
彼等の採《と》って来てくれるものは色彩の極《きわ》めて乏しい野生の秋草であった。
ある日しんとした真昼に、長い薄《すすき》が畳に伏さるように活けてあったら、いつどこから来たとも知れない蟋蟀《きりぎりす》がたった一つ、おとなしく中ほどに宿《とま》っていた。その時薄は虫の重みで撓《しな》いそうに見えた。そうして袋戸《ふくろど》に張った新らしい銀の上に映る幾分かの緑が、暈《ぼか》したように淡くかつ不分明《ふぶんみょう》に、眸《ひとみ》を誘うので、なおさら運動の感覚を刺戟《しげき》した。
薄は大概すぐ縮《ちぢ》れた。比較的長く持つ女郎花《おみなえし》さえ眺めるにはあまり色素が足りなかった。ようやく秋草の淋《さみ》しさを物憂《ものう》
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