下げ]
秋露下南※[#「石+(門<月)」、第3水準1−89−13][#「秋露下南※[#「石+(門<月)」、第3水準1−89−13]」に白丸傍点]。 黄花粲照顔[#「黄花粲照顔」に白丸傍点]。
欲行沿澗遠[#「欲行沿澗遠」に白丸傍点]。 却得与雲還[#「却得与雲還」に白丸傍点]。
[#ここで字下げ終わり]

        二十五

 子供が来たから見てやれと妻《さい》が耳の傍《そば》へ口を着けて云う。身体《からだ》を動かす力がないので余は元の姿勢のままただ視線だけをその方に移すと、子供は枕を去る六尺ほどの所に坐っていた。
 余の寝ている八畳に付いた床の間は、余の足の方にあった。余の枕元は隣の間を仕切る襖《ふすま》で半《なかば》塞《ふさ》いであった。余は左右に開かれた襖《ふすま》の間から敷居越しに余の子供を見たのである。
 頭の上の方にいるものを室《へや》を隔てて見る視力が、不自然な努力を要するためか、そこに坐っている子供の姿は存外遠方に見えた。無理な一瞥《いちべつ》の下《もと》に余の眸《ひとみ》に映った顔は、逢《お》うたと記《しる》すよりもむしろ眺めたと書く方が適当なくらい離れていた。
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