ゥろうと思った。しばらくしてから、こう言った。
「じつは佐々木君のところへ来たんですが、いなかったものですから……」
「ああ。与次郎はなんでもゆうべから帰らないようだ。時々漂泊して困る」
「何か急に用事でもできたんですか」
「用事はけっしてできる男じゃない。ただ用事をこしらえる男でね。ああいうばかは少ない」
三四郎はしかたがないから、
「なかなか気楽ですな」と言った。
「気楽ならいいけれども。与次郎のは気楽なのじゃない。気が移るので――たとえば田の中を流れている小川のようなものと思っていれば間違いはない。浅くて狭い。しかし水だけはしじゅう変っている。だから、する事が、ちっとも締まりがない。縁日へひやかしになど行くと、急に思い出したように、先生松を一鉢《ひとはち》お買いなさいなんて妙なことを言う。そうして買うともなんとも言わないうちに値切《ねぎ》って買ってしまう。その代り縁日ものを買うことなんぞはじょうずでね。あいつに買わせるとたいへん安く買える。そうかと思うと、夏になってみんなが家を留守《るす》にするときなんか、松を座敷へ入れたまんま雨戸をたてて錠をおろしてしまう。帰ってみると、松が
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