B机の上には何があるかわからない。高い背《せ》が研究を隠している。三四郎は入口に近くすわって、
「御勉強ですか」と丁寧に聞いた。先生は顔をうしろへねじ向けた。髭《ひげ》の影が不明瞭にもじゃもじゃしている。写真版で見ただれかの肖像に似ている。
「やあ、与次郎かと思ったら、君ですか、失敬した」と言って、席を立った。机の上には筆と紙がある。先生は何か書いていた。与次郎の話に、うちの先生は時々何か書いている。しかし何を書いているんだか、ほかの者が読んでもちっともわからない。生きているうちに、大著述にでもまとめられれば結構だが、あれで死んでしまっちゃあ、反古《ほご》がたまるばかりだ。じつにつまらない。と嘆息していたことがある。三四郎は広田の机の上を見て、すぐ与次郎の話を思い出した。
「おじゃまなら帰ります。べつだんの用事でもありません」
「いや、帰ってもらうほどじゃまでもありません。こっちの用事もべつだんのことでもないんだから。そう急に片づけるたちのものをやっていたんじゃない」
 三四郎はちょっと挨拶《あいさつ》ができなかった。しかし腹のうちでは、この人のような気分になれたら、勉強も楽にできてよ
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