モを表した。ただその方法が少しく細工《さいく》に落ちておもしろくないと言った。その時与次郎は往来のまん中へ立ち留まった。二人はちょうど森川町《もりかわちょう》の神社の鳥居《とりい》の前にいる。
「細工に落ちるというが、ぼくのやる事は自然の手順が狂わないようにあらかじめ人力《じんりょく》で装置するだけだ。自然にそむいた没分暁《ぼつぶんぎょう》の事を企てるのとは質《たち》が違う。細工だってかまわん。細工が悪いのではない。悪い細工が悪いのだ」
 三四郎はぐうの音《ね》も出なかった。なんだか文句があるようだけれども、口へ出てこない。与次郎の言いぐさのうちで、自分がまだ考えていなかった部分だけがはっきり頭へ映っている。三四郎はむしろそのほうに感服した。
「それもそうだ」とすこぶる曖昧《あいまい》な返事をして、また肩を並べて歩きだした。正門をはいると、急に目の前が広くなる。大きな建物が所々に黒く立っている。その屋根がはっきり尽きる所から明らかな空になる。星がおびただしく多い。
「美しい空だ」と三四郎が言った。与次郎も空を見ながら、一間ばかり歩いた。突然、
「おい、君」と三四郎を呼んだ。三四郎はまた
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