かだんな》は大学校へはいっているくらいだから、石の善悪《よしあし》はきっとわかる。今度手紙のついでに聞いてみてくれ、そうして十円もかけておやじのためにこしらえてやった石塔をほめてもらってくれと言うんだそうだ。――三四郎はひとりでくすくす笑い出した。千駄木の石門よりよほど激しい。
大学の制服を着た写真をよこせとある。三四郎はいつか撮《と》ってやろうと思いながら、次へ移ると、案のごとく三輪田のお光さんが出てきた。――このあいだお光さんのおっかさんが来て、三四郎さんも近々《きんきん》大学を卒業なさることだが、卒業したら家《うち》の娘をもらってくれまいかという相談であった。お光さんは器量もよし気質《きだて》も優しいし、家に田地《でんち》もだいぶあるし、その上家と家との今までの関係もあることだから、そうしたら双方ともつごうがよいだろうと書いて、そのあとへ但し書がつけてある。――お光さんもうれしがるだろう。――東京の者は気心《きごころ》が知れないから私はいやじゃ。
三四郎は手紙を巻き返して、封に入れて、枕元《まくらもと》へ置いたまま目を眠った。鼠《ねずみ》が急に天井《てんじょう》であばれだした
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