るだけ精密に叙述して来たが、慣れぬ事とて余計な叙述をしたり、不用な感想を挿入《そうにゅう》したり、読み返して見ると自分でもおかしいと思うくらい精《くわ》しい。その代りここまで書いて来たらもういやになった。今までの筆法でこれから先を描写するとまた五六十枚もかかねばならん。追々学期試験も近づくし、それに例の遺伝説を研究しなくてはならんから、そんな筆を舞わす時日は無論ない。のみならず、元来が寂光院《じゃっこういん》事件の説明がこの篇の骨子だから、ようやくの事ここまで筆が運んで来て、もういいと安心したら、急にがっかりして書き続ける元気がなくなった。
老人と面会をした後《のち》には事件の順序として小野田と云う工学博士に逢わなければならん。これは困難な事でもない。例の同僚からの紹介を持って行ったら快よく談話をしてくれた。二三度訪問するうちに、何かの機会で博士の妹に逢わせてもらった。妹は余の推量に違《たが》わず例の寂光院であった。妹に逢った時顔でも赤らめるかと思ったら存外|淡泊《たんぱく》で毫《ごう》も平生と異《こと》なる様子のなかったのはいささか妙な感じがした。ここまではすらすら事が運んで来たが
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