趣味の遺伝
夏目漱石

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)逆《さか》しまに

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)折々|佩剣《はいけん》

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
   (数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)※[#「螯」の「虫」に代えて「犬」、第4水準2−80−47]
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          一

 陽気のせいで神も気違《きちがい》になる。「人を屠《ほふ》りて餓《う》えたる犬を救え」と雲の裡《うち》より叫ぶ声が、逆《さか》しまに日本海を撼《うご》かして満洲の果まで響き渡った時、日人と露人ははっと応《こた》えて百里に余る一大|屠場《とじょう》を朔北《さくほく》の野《や》に開いた。すると渺々《びょうびょう》たる平原の尽くる下より、眼にあまる※[#「螯」の「虫」に代えて「犬」、第4水準2−80−47]狗《ごうく》の群《むれ》が、腥《なまぐさ》き風を横に截《き》り縦に裂いて、四つ足の銃丸を一度に打ち出したように飛んで来た。狂える神が小躍《こおど》りして「血を啜《すす》れ」と云うを
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