とすると、いけない。小石で気管を塞《ふさ》がれたようでどうしても万歳が咽喉笛《のどぶえ》へこびりついたぎり動かない。どんなに奮発しても出てくれない。――しかし今日は出してやろうと先刻《さっき》から決心していた。実は早くその機がくればよいがと待ち構えたくらいである。隣りの先生じゃないが、なあに大丈夫と安心していたのである。喘息病みの鯨が吼《ほ》えた当時からそら来たなとまで覚悟をしていたくらいだから周囲のものがワーと云うや否や尻馬《しりうま》についてすぐやろうと実は舌の根まで出しかけたのである。出しかけた途端に将軍が通った。将軍の日に焦《や》けた色が見えた。将軍の髯《ひげ》の胡麻塩《ごましお》なのが見えた。その瞬間に出しかけた万歳がぴたりと中止してしまった。なぜ?
 なぜか分るものか。なにゆえとかこのゆえとか云うのは事件が過ぎてから冷静な頭脳に復したとき当時を回想して始めて分解し得た智識に過ぎん。なにゆえが分るくらいなら始めから用心をして万歳の逆戻りを防いだはずである。予期出来ん咄嗟《とっさ》の働きに分別が出るものなら人間の歴史は無事なものである。余の万歳は余の支配権以外に超然として止《と
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