た。
「ついたようですぜ」と一人が領《くび》を延《のば》すと
「なあに、ここに立ってさえいれば大丈夫」と腹の減った男は泰然として動《どう》ずる景色《けしき》もない。この男から云うと着いても着かなくても大丈夫なのだろう。それにしても腹の減った割には落ちついたものである。
 やがて一二丁向うのプラットフォームの上で万歳! と云う声が聞える。その声が波動のように順送りに近づいてくる。例の男が「なあに、まだ大丈……」と云《い》い懸《か》けた尻尾《しっぽ》を埋《うず》めて余の左右に並んだ同勢は一度に万―歳! と叫んだ。その声の切れるか切れぬうちに一人の将軍が挙手の礼を施しながら余の前を通り過ぎた。色の焦《や》けた、胡麻塩髯《ごましおひげ》の小作《こづく》りな人である。左右の人は将軍の後《あと》を見送りながらまた万歳を唱《とな》える。余も――妙な話しだが実は万歳を唱えた事は生れてから今日《こんにち》に至るまで一度もないのである。万歳を唱えてはならんと誰からも申しつけられた覚《おぼえ》は毛頭ない。また万歳を唱えては悪《わ》るいと云う主義でも無論ない。しかしその場に臨んでいざ大声《たいせい》を発しよう
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