しわざ》だ。と云って案内を乞うて這入るのはなおいやだ。この邸内の者共の御世話にならず、しかもわが人格を傷《きずつ》けず正々堂々と見なくては心持ちがわるい。そうするには高い山から見下《みおろ》すか、風船の上から眺《なが》めるよりほかに名案もない。しかし双方共当座の間に合うような手軽なものとは云えぬ。よし、その儀ならこっちにも覚悟がある。高等学校時代で練習した高飛の術を応用して、飛び上がった時にちょっと見てやろう。これは妙策だ、幸い人通りもなし、あったところが自分で自分が飛び上るに文句をつけられる因縁《いんねん》はない。やるべしと云うので、突然双脚に精一杯の力を込めて飛び上がった。すると熟練の結果は恐ろしい者で、かの土塀の上へ首が――首どころではない肩までが思うように出た。この機をはずすととうてい目的は達せられぬと、ちらつく両眼を無理に据《す》えて、ここぞと思うあたりを瞥見《べっけん》すると女が四人でテニスをしていた。余が飛び上がるのを相図に四人が申し合せたようにホホホと癇《かん》の高い声で笑った。おやと思ううちにどたりと元のごとく地面の上に立った。
 これは誰が聞いても滑稽《こっけい》で
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