。
「なぜって、君のような道楽ものは向こうの夫になる資格がないからさ」
今度は重吉が黙った。自分は重ねて言った。
「おれはちゃんと知ってるよ。お前の遊ぶことは天下に隠れもない事実だ」
こう言った自分は、急に自分の言葉がおかしくなった。けれども重吉が苦笑いさえせずに控えていてくれたので、こっちもまじめに進行することができた。
「元来男らしくないぜ。人をごまかして自分の得ばかり考えるなんて。まるで詐欺だ」
「だって叔父《おじ》さん、僕は病気なんかに、まだかかりゃしませんよ」と重吉が割り込むように弁解したので、自分はまたおかしくなった。
「そんなことがひとにわかるもんか」
「いえ、まったくです」
「とにかく遊ぶのがすでに条件違反だ。お前はとてもお静さんをもらうわけにゆかないよ」
「困るなあ」
重吉はほんとうに困ったような顔をして、いろいろ泣きついた。自分は頑《がん》として破談を主張したが、最後に、それならば、彼が女を迎えるまでの間、謹慎と後悔を表する証拠として、月々俸給のうちから十円ずつ自分の手もとへ送って、それを結婚費用の一端とするなら、この事件は内済にして勘弁してや
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