手紙
夏目漱石

−−
【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)衣装棚《いしょうだな》

|:ルビの付いていない漢字とルビの付く漢字の境の記号
(例)万事|貴方《あなた》にお任せする

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)私の二十五日《メヴァサンジュール》[#「私の二十
 五日」全体にかかるルビ]
−−

    一

 モーパサンの書いた「二十五日間」と題する小品には、ある温泉場の宿屋へ落ちついて、着物や白シャツを衣装棚《いしょうだな》へしまおうとする時に、そのひきだしをあけてみたら、中から巻いた紙が出たので、何気なく引き延ばして読むと「私の二十五日《メヴァサンジュール》[#「私の二十五日」全体にかかるルビ]」という標題が目に触れたという冒頭が置いてあって、その次にこの無名式のいわゆる二十五日間が一字も変えぬ元の姿で転載された体になっている。
 プレヴォーの「不在」という端物《はもの》の書き出しには、パリーのある雑誌に寄稿の安受け合いをしたため、ドイツのさる避暑地へ下りて、そこの宿屋の机かなにかの上で、しきりに構想に悩みながら、なにか種はないか
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