「どうする気だって、――むろんもらいたいんですがね」
 「真剣のところを白状しなくっちゃいけないよ。いいかげんなことを言って引っ張るくらいなら、いっそきっぱり今のうちに断わるほうが得策だから」
 「いまさら断わるなんて、僕はごめんだなあ。実際|叔父《おじ》さん、僕はあの人が好きなんだから」
 重吉の様子にどこといって嘘《うそ》らしいところは見えなかった。
 「じゃ、もっと早くどしどしかたづけるが好いじゃないか、いつまでたってもぐずぐずで、はたから見ると、いかにも煮え切らないよ」
 重吉は小さな声でそうかなと言って、しばらく休んでいたが、やがて元の調子に戻って、こう聞いた。
 「だってもらってこんないなかへ連れてくるんですか」
 自分はいなかでもなんでもかまわないはずだと答えた。重吉は先方がそれを承知なのかと聞き返した。自分はその時ちょっと困った。実はそんな細かなことまで先方の意見を確かめたうえで、談判に来たわけではなかったのだからである。けれども行きがかり上やむをえないので、
 「そう話したら、承知するだろうじゃないか」と勢いよく言ってのけた。
 すると、重吉は問題の方向を変えて
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