はありません。自分の自由を愛するとともに他の自由を尊敬するように、小供の時分から社会的教育をちゃんと受けているのです。だから彼らの自由の背後にはきっと義務という観念が伴っています。 England expects every man to do his duty といった有名なネルソンの言葉はけっして当座限りの意味のものではないのです。彼らの自由と表裏して発達して来た深い根柢《こんてい》をもった思想に違《ちがい》ないのです。
 彼らは不平があるとよく示威運動をやります。しかし政府はけっして干渉《かんしょう》がましい事をしません。黙って放っておくのです。その代り示威運動をやる方でもちゃんと心得ていて、むやみに政府の迷惑《めいわく》になるような乱暴は働かないのです。近頃女権拡張論者と云ったようなものがむやみに狼藉《ろうぜき》をするように新聞などに見えていますが、あれはまあ例外です。例外にしては数が多過ぎると云われればそれまでですが、どうも例外と見るよりほかに仕方がないようです。嫁《よめ》に行かれないとか、職業が見つからないとか、または昔しから養成された、女を尊敬するという気風につけ込むのか
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