もないという事になるのです。それをもう一|遍《ぺん》云い換《か》えると、この三者を自由に享《う》け楽しむためには、その三つのものの背後にあるべき人格の支配を受ける必要が起って来るというのです。もし人格のないものがむやみに個性を発展しようとすると、他《ひと》を妨害する、権力を用いようとすると、濫用《らんよう》に流れる、金力を使おうとすれば、社会の腐敗をもたらす。ずいぶん危険な現象を呈《てい》するに至るのです。そうしてこの三つのものは、あなたがたが将来において最も接近しやすいものであるから、あなたがたはどうしても人格のある立派な人間になっておかなくてはいけないだろうと思います。
話が少し横へそれますが、ご存じの通り英吉利《イギリス》という国は大変自由を尊ぶ国であります。それほど自由を愛する国でありながら、また英吉利ほど秩序の調った国はありません。実をいうと私は英吉利を好かないのです。嫌《きら》いではあるが事実だから仕方なしに申し上げます。あれほど自由でそうしてあれほど秩序の行き届いた国は恐らく世界中にないでしょう。日本などはとうてい比較《ひかく》にもなりません。しかし彼らはただ自由なので
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