の自我本位の四字なのであります。
自白すれば私はその四字から新たに出立したのであります。そうして今のようにただ人の尻馬にばかり乗って空騒ぎをしているようでははなはだ心元ない事だから、そう西洋人ぶらないでも好いという動かすべからざる理由を立派に彼らの前に投げ出してみたら、自分もさぞ愉快だろう、人もさぞ喜ぶだろうと思って、著書その他の手段によって、それを成就するのを私の生涯《しょうがい》の事業としようと考えたのです。
その時私の不安は全く消えました。私は軽快な心をもって陰欝《いんうつ》な倫敦を眺めたのです。比喩《ひゆ》で申すと、私は多年の間|懊悩《おうのう》した結果ようやく自分の鶴嘴《つるはし》をがちりと鉱脈に掘《ほ》り当てたような気がしたのです。なお繰《く》り返《かえ》していうと、今まで霧の中に閉じ込まれたものが、ある角度の方向で、明らかに自分の進んで行くべき道を教えられた事になるのです。
かく私が啓発《けいはつ》された時は、もう留学してから、一年以上経過していたのです。それでとても外国では私の事業を仕上《しあげ》る訳に行かない、とにかくできるだけ材料を纏めて、本国へ立ち帰った後、
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