父だの母だの自分達は、この二様の意味をもった夫婦と、絵の具で塗り潰《つぶ》した綺麗《きれい》な太鼓と、何物を中に蔵《かく》しているか分らない、御簾《みす》を静粛に眺めた。
兄は腹のなかで何を考えているか、よそ目から見ると、尋常と変るところは少しもなかった。嫂《あによめ》は元より取《と》り繕《つくろ》った様子もなく、自然そのままに取り済ましていた。
彼らはすでに過去何年かの間に、夫婦という社会的に大切な経験を彼らなりに甞《な》めて来た、古い夫婦であった。そうして彼らの甞めた経験は、人生の歴史の一部分として、彼らに取っては再びしがたい貴《たっと》いものであったかも知れない。けれどもどっちから云っても、蜜《みつ》に似た甘いものではなかったらしい。この苦《にが》い経験を有する古夫婦が、己《おの》れ達のあまり幸福でなかった運命の割前を、若い男と若い女の頭の上に割りつけて、また新しい不仕合な夫婦を作るつもりなのかしらん。
兄は学者であった。かつ感情家であった。その蒼白《あおじろ》い額の中にあるいはこのくらいな事を考えていたかも知れない。あるいはそれ以上に深い事を考えていたかも知れない。あるいはすべての結婚なるものを自《みずか》ら呪詛《じゅそ》しながら、新郎と新婦の手を握らせなければならない仲人《なこうど》の喜劇と悲劇とを同時に感じつつ坐《すわ》っていたかも知れない。
とにかく兄は真面目《まじめ》に坐っていた。嫂も、佐野さんも、お貞さんも、真面目に坐っていた。そのうち式が始まった。巫女《みこ》の一人が、途中から腹痛で引き返したというので介添《かいぞえ》がその代りを勤めた。
自分の隣に坐っていたお重が「大兄さんの時より淋しいのね」と私語《ささや》いた。その時は簫《しょう》や太鼓を入れて、巫女の左右に入れ交《か》う姿も蝶《ちょう》のように翩々《ひらひら》と華麗《はなやか》に見えた。
「御前の嫁に行く時は、あの時ぐらい賑《にぎや》かにしてやるよ」と自分はお重に云った。お重は笑っていた。
式が済んでみんなが控所へ帰った時、お貞さんは我々が立っているのに、わざわざ絨氈《じゅうたん》の上に手を突いて、今まで厄介になった礼を丁寧《ていねい》に述べた。彼女の眼には淋《さび》しそうな涙がいっぱい溜《たま》っていた。
新夫婦と岡田は昼の汽車で、すぐ大阪へ向けて立った。自分は雨のプラット
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