と云うと、小僧は考えもせず、すぐ、
「うん」
と承知した。赤毛布《あかげっと》と云い、小僧と云い、実に面白いように早く話が纏《まと》まってしまうには驚いた。人間もこのくらい簡単にできていたら、御互に世話はなかろう。しかしそう云う自分がこの赤毛布にもこの小僧にも遜《ゆず》らないもっとも世話のかからない一人であったんだから妙なもんだ。自分はこの小僧の安受合《やすうけあい》を見て、少からず驚くと共に、天下には自分のように右へでも左へでも誘われしだい、好い加減に、ふわつきながら、流れて行くものがだいぶんあるんだと云う事に気がついた。東京にいるときは、目眩《めまぐるし》いほど人が動いていても、動きながら、みんな根《ね》が生えてるんで、たまたま根が抜けて動き出したのは、天下広しといえども、自分だけであろうくらいで、千住から尻を端折《はしょ》って歩き出した。だから心細さも人一倍であったが、この宿《しゅく》で、はからずも赤毛布《あかげっと》を手に入れた。赤毛布を手に入れてから、二十分と立たないうちにまたこの小僧を手に入れた。そうして二人とも自分よりは遥《はるか》に根が抜けている。こう続々同志が出来てく
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