坑夫
夏目漱石

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)いくら歩行《あるい》たって

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)無論|端折《はしお》ってある。

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
   (数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)※[#「口+禺」、第3水準1−15−9]
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 さっきから松原を通ってるんだが、松原と云うものは絵で見たよりもよっぽど長いもんだ。いつまで行っても松ばかり生《は》えていていっこう要領を得ない。こっちがいくら歩行《あるい》たって松の方で発展してくれなければ駄目な事だ。いっそ始めから突っ立ったまま松と睨《にら》めっ子《こ》をしている方が増しだ。
 東京を立ったのは昨夕《ゆうべ》の九時頃で、夜通しむちゃくちゃに北の方へ歩いて来たら草臥《くたび》れて眠くなった。泊る宿もなし金もないから暗闇《くらやみ》の神楽堂《かぐらどう》へ上《あが》ってちょっと寝た。何でも八幡様らしい。寒くて目が覚《さ》めたら、まだ夜は明け離れていなかった。それからのべつ平押《ひらお》しにここま
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