でやって来たようなものの、こうやたらに松ばかり並んでいては歩く精《せい》がない。
足はだいぶ重くなっている。膨《ふく》ら脛《はぎ》に小さい鉄の才槌《さいづち》を縛《しば》り附けたように足掻《あがき》に骨が折れる。袷《あわせ》の尻は無論|端折《はしお》ってある。その上|洋袴下《ズボンした》さえ穿《は》いていないのだから不断なら競走でもできる。が、こう松ばかりじゃ所詮《しょせん》敵《かな》わない。
掛茶屋がある。葭簀《よしず》の影から見ると粘土《ねばつち》のへっつい[#「へっつい」に傍点]に、錆《さび》た茶釜《ちゃがま》が掛かっている。床几《しょうぎ》が二尺ばかり往来へ食《は》み出した上から、二三足|草鞋《わらじ》がぶら下がって、袢天《はんてん》だか、どてら[#「どてら」に傍点]だか分らない着物を着た男が背中をこちらへ向けて腰を掛けている。
休もうかな、廃《よ》そうかなと、通り掛りに横目で覗《のぞ》き込んで見たら、例の袢天とどてら[#「どてら」に傍点]の中《ちゅう》を行く男が突然こっちを向いた。煙草《たばこ》の脂《やに》で黒くなった歯を、厚い唇《くちびる》の間から出して笑っている。こ
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