》はまだだいぶあるくらいは知らぬ間《ま》に感じていたんだろう。行き着いていよいよとならなければ誰がどきん[#「どきん」に傍点]とするものじゃない。したがっていっその事を断行して見ようと云う気にもなる。この一面に曇った世界が苦痛であって、この苦痛をどきん[#「どきん」に傍点]としない程度において免《まぬか》れる望があると思えば重い足も前に出し甲斐がある。まずこのくらいの決心であったらしい。しかしこれはあとから考えた心理状態の解剖である。その当時はただ暗い所へ出ればいい。何でも暗い所へ行かなければならないと、ひたすら暗い所を目的《めあて》に歩き出したばかりである。今考えると馬鹿馬鹿しいが、ある場合になると吾々は死を目的にして進むのを責《せめ》てもの慰藉《いしゃ》と心得るようになって来る。ただし目指す死は必ず遠方になければならないと云う事も事実だろうと思う。少くとも自分はそう考える。あまり近過ぎると慰藉になりかねるのは死と云う因果である。
ただ暗い所へ行きたい、行かなくっちゃならないと思いながら、雲を攫《つか》むような料簡《りょうけん》で歩いて来ると、後《うしろ》からおいおい呼ぶものがある
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